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とりあえず萌えたものについて書いてこうかな
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 というわけで、25題、ひとつめの銀妙><







1 きらり、きらり、星が降る







 江戸の夜空を切り裂いて、銀色の光が落ちていく。
 万事屋の窓から、それを眺めていたお妙は、小さくため息を漏らし、それから、つけっぱなしのテレビへと視線を移した。
 燃え上がるターミナルと、詰めかけたパトカーの赤色灯。それから、報道陣の姿が映るそこは、明らかに非日常を描きだしていた。

 あの渦中に、彼らが居る。

 大事な弟と、妹のように可愛い少女と、それからどうしようもなく、駄目な大人が一人。


 彼らがそこに居る理由を、お妙はよく知らない。ただ、彼らが切羽詰まった顔で言っていた、「春雨」とか「神威」とか「高杉」という単語だけは拾っていた。

 おそらく、それらが原因なのだろう。
 お妙は再び溜息をつく。
 テレビから漏れてくる、ニュースキャスターの声は「ターミナル上空で天人の巨大宇宙船が崩壊した」という事実と、そのせいで、沢山の船体の欠片が江戸の街に降り注ぐ恐れがある、という内容だった。

 たくさんの、星が降ってくる。


 お妙は、騒ぎ立てる現場レポーターの声をBGMに、窓の向こう、光があふれるターミナルをじっと見詰め続けた。

 

 

 

「と、いうわけで、この流れ星は銀さんのお陰だから、お前ら感謝してよーくその眼に焼きつけるように。」
 ターミナル上空の巨大船爆破事件から、一週間。
 今だに、船体の欠片が降り注ぎ昼夜問わず「メテオ注意報」が出ている江戸の街、かぶき町で、銀時と新八、神楽、それからお妙がなぜか花見でもするような装いで、町を見下ろせる高台の公園へときていた。
 時刻は夜遅く、空には銀色の星が光輝いていた。

 船体の欠片だろうが、えいりあんの死体だろうが、江戸の空を、光をまき散らして落ちる物体は「流れ星」であり、現在、それに願を掛けるのが秘かなブームを呼んでいた。
「はい、火付け役は俺ですからねー。全員この、願いが叶う『かのうみか』マットを敷いて例のポーズで願をかけるんですよー」
「分かってるアル。たしかこんな感じの悩殺ポーズだったはずネ」
「いいよ、神楽ちゃーん。そのままエビ反った感じで、そう!流れ星がいま来ますからねー」
「あの・・・・・銀さん・・・・・」
「なんだい新八君。」
 いそいそと水着姿の巨乳なお姉さんが描かれたマットに横になる二人に、同じく渡されたそれを抱えて棒立ちしていた新八が、引きつった顔をした。
「いえ、なんだいって言われても困るんですけどね・・・・・なんなんですか、その『かのうみか』マットって・・・・・」
「ばっか。お前知らないの?今江戸で大ブームの願掛けグッズよ?これがあるのとないのとじゃ、願いの叶う確率が段違いなんだよ?」
「スティーブとジェーンがこれのお陰で結婚したネ」
「誰その二人!?有名人!?」
「あと、ケンとボブも結婚したネ」
「男同志で!?」
「お前な、愛情に性別は関係ないんだぞ?お前だって願えば、メガネと結婚できるんだから」
「無機物と結婚してどうすんですか!?あ・・・・・でも、なら僕は是非お通ちゃんと・・・・・」
 照れたように笑い、持っていた『かのうみか』マットを広げて腰を下ろそうする。その時ふと自分に注がれる視線に少年は気づいた。
「あ・・・・・あの・・・・・新八ぃ・・・・・アイドルと結婚は・・・・・できないネ・・・・・」
「すまねぇ・・・・・このマットはな、身の丈にあった願いしか・・・・・その・・・・・叶えてくれないんだ・・・・・残念ながらな」
「真剣に諭すのやめてくんない!?」
 なんで二人とも視線を逸らすわけ!?ちょ・・・・・超悲しい奴みたいな風に見ないでくんない!?新八を馬鹿にするのやめてくんない!?
 泣き叫びそうな勢いで告げる新八に「まあまあ、身の程知らずの願いなんかかけても時間の無駄でしょう?」と涼やかな声が降ってきた。
「それも絶妙に心をえぐるんですけど・・・・・」
 振り返った弟は、そこに同じようなマットを持って立つ姉の姿を認めた。
「なにはともあれ、こんな素敵な期間を作ってくれた銀さんに感謝して、願掛けでもしましょ?」
 にこにこ笑うお妙に、銀時は一瞬で青ざめて視線をそらした。
「い・・・・・いやあ・・・・・まあ・・・・・」
「ほんっっっと、ありがとうございますね、銀さん」
 うふv
 恐ろしすぎて直視できないお妙の笑顔から、視線を外したまま、銀時は、この事態を招いた果てにあった、己を顧みなかった行動と、それによって受けた傷、心労を思い返して脂汗をかく。
 引きつった顔を、蒼白にする男を放っておいて、「さ、じゃんじゃん願いますよ」とお妙がマットを広げた。
「あー、あ、姉御!そ、それ・・・・・!!」
 銀座でしか売ってない『かのうきょうこ』マットね!!!

 同じ巨乳の姿があるが、お妙が持っているのは、ゴージャスに黄金のドレスを身にまとった女性が描かれていた。

「いいなー、姉御・・・・・それ、今一番人気ネ・・・・・」
「どうしてもってお客さんにお願いしたら買ってくれたのよ。」
 にこにこ笑うお妙に、「さっすが姉御アル!」と神楽が憧れの眼差しを送った。
「夜の女王アル!!」
「やだ、神楽ちゃんったら」
「・・・・・あれ、どうやって手に入れたんだ?」
 きゃっきゃきゃっきゃと笑う二人を横目に、銀時が半眼でこっそり新八に尋ねれば、彼はメガネを光らせたまま、無表情で「姉上自身の力でですよ」とぼんやり答えた。
「へえ・・・・・すげえなお妙・・・・・男を自由にできるんだ・・・・・さすがキャバ嬢・・・・・」
「別の意味でですけどね。」

 半殺しにされかかったお客に同情しながら、銀時は不意に目を瞬いた。

「つか、なんでそこまでして、あんなマット手に入れたんだ?あいつ・・・・・」

 

 

「卵かけごはんんんんんんんん!!!!」
「お通ちゃんのライブビデオ・幻の通天閣コンサートぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「卵かけごはあああああああん!!!!」
「お通ちゃんのおおおおおお!!!!発売禁止アルバムウウウウウウウウウウ!!!!」
「卵かけておまけにごはんですよがついたごはああああああああああああんんんん!!!!!!」
「お通ちゃんとおおおおおおおおおおおでえええええええええええええ」


 うるせえ。


 絶叫し、二人でエビ反って夜空に懇願する新八と神楽を見たまま、銀時は己のストレートヘアーをさんざん叫んだ後でそう判定した。
「あら、銀さんはもういいんですか?」
 あれが若さというものか、とどっかで聞いたような台詞で締めくくろうとしていた銀時は、いつの間にか隣に腰をおろしていたお妙に、胡乱気な視線を向けた。
「いいんだよ、俺は。明日床屋にでも行くから。」
「そうですね。銀さんがいくら叫んだところで、ストレートヘアーになんか絶対になりませんもんね。」
 毛根と根性と顔がひん曲がってますから。
「・・・・・・・・・・・・・・・お前な」
 引きつった顔で告げる銀時から、笑顔で視線を反らして、お妙は空を見上げた。

 銀いろの光が、ついっと、空を横切り落ちていく。

「で?客に買わせたマットのお姉さんは願掛けしないわけ?」
 よっぽどなんか、叶えたい願い事があんじゃねぇの?
 馬鹿にしたように言われて、ちらと銀時を見遣ったお妙は、溜息をついた。
「ええ。そうなんですけどね。ここにいる万年金欠のぐーたらした大人が原因で、このメテオブームがあるんだと思うと、なんか、それに願をかけてもかなわないような気がして来たのでやめることにしました。」
「どういう意味ですか、おねーさん。」
「そのまんまの意味です。」
 にこにこ笑うお妙に、銀時はちっと舌打ちすると、ごろりとマットの上に寝そべった。
 それから、まだ、夜空を見上げるお妙をしばらく眺めた後、魔の悪そうに切り出した。
「・・・・・・・・・・まだ怒ってんのか?」
「何にですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 無理・無茶・無謀。

 三冠達成して帰って来た時、銀時はお妙に殴られた。
 渾身の力を込めて殴り飛ばされたのなら、どれだけ良かっただろうかとそう思う。
 この、怪力魔王から、力ない拳なんか、受けたくもなかった。


「悪かったよ。」
 ぼそっと、何度目かになるか分からない謝罪を口にすれば、振り返ったお妙が、おもむろに銀時の袷をつかみ上げた。
「だったら、やることがあんだろ?」
「え?」

 ぐいっと引っ張られて、お妙が腰を下ろす「かのうきょうこ」マットに座らされる。

「ほら。」
 座ったまなざしを受けて、銀時は困惑する。
「え?ちょ・・・・・何が?」
「とっとと誓いやがれ、コラ」
「は?いや・・・・・え?何を?」

 引きつった顔で尋ねる銀時に、お妙が壮絶な笑顔を見せた。

「自分が死んだら、保険金は全部志村妙にお渡ししますって、誓えってんだよ、コノヤロー」

 はいいいいいいいいい!?

「いやいやいやいや、ちょっとまて。何それ?お前、明らかになんかおかしなことたくらんでない!?誓えってなに?何に何を誓うわけ!?」
「そしてこの紙にサインしろ。」
「明らかにメテオ関係ないよね!?願掛けじゃないよね!?願じゃなくて、保険掛けるつもりだよね!?!?」
「心配しなくて大丈夫ですよ、銀さん。癌保険もかけてあげますから」
「願違いだろそりゃ!?つか、いやいやいやいや、そういうんじゃなくて!!!!お前、何企んでんの!?怖いんだけど!?」
「いいから制約しろや。」

 銀色の光をたたえた、お妙の眼差しを前に、銀時は言葉をなくす。
 その彼に、ゆっくりとお妙が続けた。

「別に関係ないでしょう?貴方は死なないつもりなんだし。何があってもジャンプの主人公だから死なないんですから。保険掛けられたって、平気でしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 かすかに震えたお妙のセリフに、銀時はどきりとした。睨みつける彼女の瞳に、かすかにきらりと光る物があって、男は押し黙る。

「さ、ハンコでも何でも押してくださいな。」
 挑みかかる女に、しばし言葉をなくして、それから銀時は盛大な溜息をついた。それから、お妙の掲げる契約書をつかみ取ると、綺麗にまっぷたつに引き裂いた。
「ちょ!?」
「悪かったよ。」
「はあ!?」
「だから、悪かったって言ってんだよ。」
 びりびりに破いて、それを夜風に放る。吹き抜けたそれに、白い紙が舞いあがった。
「そうだよな。ジャンプの主人公は死なないよな。死んでも誰かが生き返らせてくれるよな、普通。」
 ドラゴンボールとかで。
「言っときますけど、私は探しませんよ。探し出しても、貴方のためには使いません。」
 道場再建もしくは、永遠にストーカーを消し去ります。
「ああそう。」

 返す言葉もなく告げて、それから銀時は笑った。

「それで十分だよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「悪かったよ、お妙。次から気をつける。」
「信用なりません。」
「じゃあ、誓うか。」


 視線を上げて、落ちていく銀色の落下物に目をやった。

 

 己が落とした船体の、銀色の破片が燃え尽きながら落ちていく。


「お妙を心配させるようなことは」


 きらり、きらり、星が降る。


「そんなにしねーよーにするよ。」

 銀時のそのセリフに、お妙は呆れ、呆れたことがおかしくて、小さく笑った。


 卵かけごはんと、お通ちゃんのアルバム、という絶叫がこだまする夜の話であった。

 

 

 

 

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